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三浦弘行九段の将棋ソフト使用疑惑は不正なしという調査結果を受けて

2016年12月26日昨日、10月より問題となっていた三浦弘行九段の将棋ソフト使用疑惑について、将棋連盟の依頼により監査を担当した第三者調査委員会により調査結果を報告会見がありました。以前この件に関しては一致率の統計的有意性についての記事を書いたこともあり、続報として、また特に将棋ファン以外の方にも三浦九段への「ソフト指し疑惑は不正なし」という事実の周知、三浦九段の名誉回復を願ってエントリーを書きます。

第三者調査委員会の会見概要

第三者調査委員会の会見よると調査結果の概要は以下の通り。


1.不正の有無

疑惑の根拠として指摘されたものはいずれも実質的な証拠価値に乏しく、不正に及んだと認めるに足る証拠はないと判断した。

2.出場停止処分の妥当性

処分は、竜王戦七番勝負の開幕を控え、不正行為疑惑が解消されていないという非常事態において、連盟所属棋士および公式戦における規律権限の範囲内であり、当時の判断としてはやむを得ない。

http://shogi1.com/miurahiroyuki-daisanshakaiken/




1.不正の有無について

「不正の証拠なし」これは多くの将棋ファンが予想していた通りで、不正の証拠はありませんでした

そもそもの不正疑惑の根拠の一つとされた、「7月26日の対久保九段戦の夕食休憩後の30分の離席」の事実もないことが確認されました。

不正の根拠とされた一致率もばらつきがあり、将棋ソフトの指し手との高い一致率は、技巧公開前や他棋士の棋譜でも見られ、不正の根拠とはなりえないと判断されました。

調査委員会は三浦九段の過去の対局はもちろん、他の棋士の棋譜も相当数遡って調べた上でこの結論が出されているので、一致率がプロ棋士の不正の根拠にならないことが、(明確になりました。

一致率についてはこのブログでも、2chの将棋板で検証された一致率の統計的有意性を調べ記事にしました。

記事の検定では一致率はばらつきがあり、問題となった7月以降と以前で統計的有意差はないとの(調べた範囲では)結果が導かれました。

これは調査委員会の調査結果とも矛盾しない内容で、また「一致率は(不正の根拠として)意味がない」という見識は多くの将棋ファンや一部の棋士の方が問題当初から指摘していた通りです

将棋ソフト不正使用疑惑問題と一致率の統計的有意性について - Minimal Green


2.出場停止処分の妥当性について

「出場停止処分」の妥当性について第三者調査委員会は「妥当」だと判断しましたが、本日の三浦弘行九段の会見で代理人弁護士は

「第三者は将棋連盟が依頼して多額の調査料を払って成立した委員会なので結果が将棋連盟よりになるのは仕方ない。不正疑惑の根拠となった30分の離席もなく、8月26日、9月8日の対丸山九段戦の夕食休憩後、連盟理事が三浦九段を監視していたにも関わらず、不審な行為は認められなかった事実があり、不正を疑う根拠がそもそもなく一部棋士の邪推である。竜王戦開幕を控えて時間がなく非常事態であったというのも、実際には8月終わりから理事は調査しており時間的余裕はあった。」
と述べています。

不正の根拠となる事実がすべて否定・却下されたのに、処分が妥当であるのはおかしいと思います。三浦さんと弁護士の方が仰るように「妥当性は全く無い」と言えます。

第三者調査委員会の但木委員長は妥当性について


「例えはおかしいのかもしれませんけれども、高速道路が通る時に一軒の家が真ん中にあって、立ち退かさざるをえないということがあるんですね。社会全体の利益のためにその人に立ち退いてもらう。だけど、立ち退く人は別に何も悪くないって場合があるんですね。そういう場合、全体のために被った不利益については、それなりに償う形で、バランスを取っている訳ですね。」

http://i2chmeijin.blog.fc2.com/blog-entry-5093.html

と会見で述べられていました。

この喩えについて、将棋ファンで憲法学者の木村草太氏はTBSラジオSession22で

「警察による逮捕も容疑が確定していなくても、容疑を調べるために容疑者を逮捕し拘束することはあると。非常に法律家らしい見解」
との評価をされています。

木村草太が語る現役棋士の将棋ソフト問題。憲法学者からみて第三者委の判断は的確だったのか?「荻上チキ・Session-22」【音声配信】

この但木氏の喩えは公共の利益のためというのはわかるのですが、今回の場合はそもそも疑いの元となった根拠が希薄(というか無い)で、客観的な証拠は一切ないわけです。

法解釈的な比喩にのっかるなら今回の件は「不当逮捕」「冤罪」であると言えるでしょう。

緊急性があった・他に手段がなかったというのも、竜王戦は金属探知機による検査を実施するとすでに発表されており、そのまま三浦九段が出場していても不正の問題なかったはずです。

週刊文春に記事が出るというリスクも、そのまま三浦九段が出場していたら、問題も起きず、あれほど大体的に不正疑惑が報道されることもなく、大きく世間で取り沙汰される事態にはなっていなかったでしょう。

ここまで一般の方が「三浦さんは黒」という印象を抱く結果になったのは、将棋連盟が三浦九段を一方的に出場停止処分にし、またその裏に不正ソフト疑惑があるとマスコミにリークしたからです。

いくら飛ぶ鳥を落とす勢いの週刊文春でも「疑惑の竜王戦挑戦者」のスクープ記事を出したところで、一般の人は将棋棋士の名前も将棋ソフトのことも知らないし、ワイドショーも乗っかって報道しないでしょう。将棋ファンやネットでは騒がれるかも知れませんが、一週刊誌が証拠もない疑惑の記事を出したところで(TOPの見出し記事でもないでしょうし)一般の方にまで周知され「将棋界の信頼や名誉が損なわれる」結果にはならなかったと思います。ここまで大きな混乱を招いたのは連盟の処分とその経緯発表の仕方に問題があったと思います。


将棋連盟の対応にはがっかりだが・・・

一刻も早い三浦弘行九段の名誉回復と補償に向けて、誠実な対応に尽力されることを願います。

今回の問題を(将棋に興味がないのにもかかわらず)面白おかしく伝えたメディア・特にテレビの低俗なワイドショー番組には、調査委員会の調査結果及び三浦弘行氏側の会見もきちんと報じて欲しいと思います。

三浦九段が落ち着いて対局に復帰できますように。

d.hatena.ne.jp

こちらのエントリーにはとても共感しました。本当にこのような事態が繰り返されないよう、常識をもった外部の人間が連盟の実務に加わるべきだと思います。

三浦九段の件のニュースや会見の内容については将棋ワンストップ・ニュースさんのブログがわかりやすいです。

第三者調査委員会の報告を受けた三浦弘行九段と日本将棋連盟の会見概要 | 将棋ワンストップ・ニュース